―ヴァレー空軍基地 屋外―  デブリーフィング後の眼に疲れがあるにも関わらず、俺は日差しが強い外へ出た。  今は1995年の4月2日、その夕方だ。 俺は昼過ぎの1時に此処、ヴァレー空軍基地から山岳地帯、区域としてはヴァレー空軍基地の中へと飛んだのだ。  まぁ、問題はそんな所ではない。厳密に言うと、そんな近場へ出撃した、というのはかなり危険な状況であった。  話を戻そう、今日は俺の久々の出撃だったのだ。傭兵をこんなに長い期間、使わずに雇ったままというのは上の連中は頭が悪いのだろうか。  しかし、これでやっと部隊に配属されたのだ。そして共に飛ぶ僚機だって出来たのだ。…これまた半端無いのだが。 俺は一人で笑いそうになりながらも、やはり人間というのは人の目が気になる物で、グッと笑いをこらえながら誰かと話して気を紛らわす事にした。 「おつかれさん」目に入った整備のおじさん、ギーナ・ノイバートに声をかけた。 「おぉ フォルク 今日は何機落とした?」 「うっ…」この事を埋める為に話しかけたつもりが、逆に掘り返された。話す相手を間違えたな、俺。  ギーナさんは、よく「何機落としたか」等と聞いてくるので、調子が悪かった時は話さない事にしている…というか、『していた』が正しい。 まぁいいや、今日はペアの奴が強かっただけだし話すか。 「今日のペアの奴が上手過ぎてさ…落とせなかったんだ、笑っちゃうよなぁ」 「…そういや お前のペアの奴って…あいつか?」 ギーナさんはそう言うと、沈んでいる夕日が眩しい空へと指を差す。その指が差す先には1つの機体があった。 ―――俺と同じF‐15C、俺のと違うのは塗装だけである。それ以外のフォルムは同じだ。  もう帰還してから1時間弱は立っている。しかしそのコックピットには何故か人影。夕日が後ろにある為、より輪郭がハッキリと見えた。 「…寝てないか?」1時間近くもコックピットで寝てる奴なんて聞いた事も見た事も無い。 「…また寝てるのか…」 「また?…まさか」この言葉で1つだけ心当たりを思い出した。その名は―――。 ―――『コックピット寝落ち魔』聞いた事ぐらいあるだろ? 「あぁ…あんなバカの2番機かよ…」  『コックピット寝落ち魔』此処、ヴァレー空軍基地ではかなり有名だ。いつも無言で寝る時はいびきをかかない。ここだけ聞けばただの寝相が良さ気な人だろう。 しかし最近では何気にバカという事まで分かってきた様な奴なのだ。  俺はそいつの2番機となってしまったのか、落ちぶれたな―――ぁ。俺が2番機という事は、あいつは1番機な訳で…、今日だけペアという訳じゃ無い。 ぁ、ぁぁ、ぁぁぁ…俺は『あ』がゲシュタルト崩壊せん、とばかりに頭の中が軽い絶望感で満ちてきた。 「俺のパイロット人生終わった…」 「はっはっは まぁ常識はある奴だから仲良くな」はっはっはじゃないです。かなり落ち込みますよ、このジョーク。 ジョークじゃないのは分かっているが、こう思ってないと、次の出撃に、備えられない気がした。区切り方までおかしくなって来たぞ、俺。  常識あるなら寄宿舎で寝ろよ…と、突っ込みたいのだが自分も眠い…というか頭痛が酷いので、しぶしぶと寄宿舎に戻った。 後々考えれば、この様に突っ込みスキルが格段と昇華していったのも1種の現実逃避なのかもしれなかった。  そういえば、デブリーフィングの時に相棒の姿が無かったな。 ―ヴァレー空軍基地 寄宿舎― 扉を開けた瞬間、白…いや灰色?昔は同僚がポスター等々を貼っていて、壁の色なんざ気にも止めなかった事が気になり始める。 「そっか…あいつらは居ないんだった」  小説でいきなり1年前の事を思い出す、等という事は通常無いと思ってはいたが事実こうしてあったのだから、小説等を書いている方々に色々と申し訳無くなる。 どの執筆家にだ。とか思った皆さん、今度は貴方が俺『ラリー・フォルク』に謝って下さい。  俺はガルム隊の前に「ヴァリラント隊」という所に所属していた。その隊はとある理由で解隊。その為、こうしてガルム隊に転属という流れである。 その時、俺は日記を書いていた。但し3行以内に書く、という物であった。しかし、あの時は1日の情報量が半端じゃなかった。  いや、何故3行なのかという所に目を付けた方が良いだろうか。それは昔、教官に『情報をまとめる力を付けろ。』と言われたのが始まりだったろうか。 ―――コンコン ガチャっ…  考え事を共同の部屋でしていると急に現実に引き戻されるから注意せねば。と、頭をすぐに動かした為か言葉が『バラバラ』と限り無く出てくる。 それか、俺は少し微睡んでいたのかもしれない。何故ならば初めは急速に働いたものの、それは覚醒だったというか…。あれ、覚醒てなんだっけ。 …考えてないで早く出た方が良いな。待たせていると失礼だ。 「どうされまし…誰ですか?」 「…ぅん?ぇ…僕、サイファーだよ?」 「…相棒?」  「そうだが…その…じろじろ見るな…」 「え? あ…ごめんな」 「まぁ…今の事は良いとして―――  いやいやいやおいおいおい、パッと見た感じで15歳なんだが。だめだ…、俺そろそろ落とされるのかな…。 いやこれは疲れだきっと大丈夫寝れば治る治ってくれるそう信じてるそうであってくれ。俺は文と共に年齢も区切れないのか。 ―――考えていた矢先、腹に激痛が走っていた。 おいマッハコーン見えたぞコラ。盛りましたごめんなさい。 「急に殴んなって…ちょ、痛いわ!」 「話してるんだから聞けよ…眠いからもう寝るよ…お休み」 「ェ 殴っておきながら?」 「…スー…スー…」 「…もう…いいや…」  じぃー…。  『あんな事』しでかした相棒がショタとは微塵も思わんかったよ。 俺もう疲れた、寝るわ。  只今の時刻、0時0分キッカリ。 彼は自分の死期の近さを感じつつ寝床に入った。  寝る頃には、次の作戦から『サイファー』と共に行動する。という事を彼は忘れていた。  …ロ …キロ …オキロ ―――起きろつってんだろ妖精があぁぁぁぁ!!!